逆寅次郎はタナトスを抑えられるか?

子どもの無垢な残虐性を描き切ったミヒャエル・ハネケの傑作「ベニーズ・ビデオ」

youtubeを観ていて偶然、Z会のCMが流れた。
俺はそのCMを観て瞬間「んん?」と、何か違和感を感じた。

 

幼児「おうちが学びになる」篇_Web

 

その違和感を確かめるために、繰り返しCMを視聴した。
そして気付いたのよ。
「俺はこのCMが嫌いだ」ってな。

一個人の感想だから、別にディスっているわけではない。

なぜ嫌いか、俺は嫌悪感を感じたのか。

 

ちなみに子どもは嫌いじゃないよ。
確かに孤独な独身男性でソロ生活をしているけど、帰省の際は甥っ子と遊んだりするし、電車の中で子どもが騒いでても「元気だな~いいなぁ」って感じで、別に気に障ることはほとんどない。

 

じゃあなぜこのCMが嫌いか。
それは「子どもの性格とか多様性を無視して、大人の画一的な理想像を子どもに押し付けている感じがするから」だ。

「Z会の学びは教材を閉じた後も続く」というナレーションとともに、教材を閉じたと同時に、空気に興味を持つ子ども。

なんていうリアリティのないご都合主義だ。

「リアリティが無いな」と思われないよう、世の中のクリエイターやストーリテラーは、もっと狡猾かつ繊細に話を進める、過程を緻密に描く。
短いCMだからそれは難しいかもしれないけど。
だからといってCMにリアリティは不要なのか?って話だ。

 

そんで子どもがものすごく空気に興味を持って、親の理想である「好奇心旺盛で学ぶ意欲の高い我が子」を体現している…だけどな・・・。

 

そんな都合のいい子ども、いねーよ!

 

親の理想通りに好奇心を持ってくれないパターンだって多々ある。
空気だとか科学的な事象に興味を持って理系脳を養ってほしいと思っていたとしても。

例えば、途中で空気じゃなくて、リモコンとかの機械をいじったと思ったら、それにすぐ飽きてアンパンマンのぬいぐるみを投げたり、腹減ってみかん食べだしたりと。
興味・関心が一日中、持続するなんてあり得ない。

いわば大人の理想、「子どもはこうあってほしい」というイデオロギーを押し付けているんだよな。

 

 

椎名林檎が栗山千明に提供してセルフカバーもしている「青春の瞬き」は名曲。
何度も聴いている。

だけど歌詞にある「子供みたいに疲れを忘れて~♪寄り掛り~合えば~♪」ってとこは、なんかリアルじゃない。

寄り掛かる相手、友達がいない子どもだっているし、疲れるまで別に動かず家で一日中過ごす子どももいる。

 

他にも例がある。

 

 しかしね、たとえば医療従事者に拍手する小学生の映像。僕はちょっとあれは気持ち悪いと思ったんですが、子供たちの中に内在的に感謝の気持ちを持っているのが一人もいないのが明白だからです。単に言わされているだけで、個々の人間性が無化されたロボットみたいに見える。これは容易にファシズムに結びつくな、と思っちゃった。
 (3ページ目)角幡唯介「あなたの探検や本は社会の役に立ってないのでは」に言いたいこと | 文春オンライン

極夜行」の著者であり探検家の角幡唯介氏のインタビュー記事。
これも大人が、子どもの理想像を押し付けていることに嫌悪感を抱いたという話で、今回の俺のケースに似ているな。

だからといって子どもは自由にさせよ、ってわけじゃねえんだ。
教育は大事だと思うし、倫理や規範を子どもに教えることは重要でもある。

 

俺は田舎の公立の小学校に通っていたが、本当に酷い学校だった。
野島伸司の「人間・失格」で描かれているようなエグい子どもがいっぱいいた。

教師に反抗して苗字で呼び捨てにする子ども、エアガンを学校に持参して撃ってくる子ども(俺は撃たれてふくらはぎが蚯蚓腫れになった)、教育実習生の若い女性にデリカシーの無い発言をする子ども、極めつけは・・・これ以上は書けない。

 

とにかくそんな腐った環境で育ってしまったがゆえに、俺は地元が今でも好きになれず、東京に住んでいる。
闇金ウシジマくん」の10巻か11巻か忘れたけど「サラリーマンくん」編で、サラリーマンの小堀の奥さんが、ガラの悪いママを町で見かけて、子どもを私立に行かせたがる気持ちが、俺にはわかる。

いやもちろん、私立でも陰湿である程度の規範やモラルが醸成されていない子どもだっているかもしれない。でもその分母は、公立よりは少ない気がするんだよな。
酷い公立学校で過ごした身としては、そう思ってしまう。

だから自由にさせろってわけじゃない、教育は重要だ。

 

だけど、何でもかんでも大人の理想を押し付けるのは、子どもの人権を尊重していないように映るし、本当に大人の都合で生み出されたロボットみたいに見えてしまって、映像からリアリティも感動も得られないってことだ。

じゃあどうすれば、例えば何かの作品で子どもを描く際、リアリティを付与することができるのか?
その答えはな…オーストリアの巨匠、

 

ミヒャエル・ハネケのベニーズ・ビデオ

 

 

これしかない。

この映画を観れば、子どものことがよくわかる。

無垢な子ども、その子どもの好奇心が行き着く果ての先を観てしまって、俺は衝撃を受けた。

子どもの扱いは難しい。

社会や大人の思惑通りに育ってくれるとは限らない…そのリアルをとことん、描いている。

 

育児の参考ビデオとして、プレママとかにプレゼントすればいいかもな。

ああ、でもDVDとかプレミアになってるから、無理だなぁ。

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管理人:逆寅次郎
東京在住のアラフォーのおっさん。大学卒業後、出版業界とIT業界で、頑張ってサラリーマンを15年続けるも、他律的業務と人間関係のストレスでドロップアウト。日銭を稼ぎながらFIREを夢見る怠惰な人間。家に帰っても家族もおらず独り、定職にも就かずにプラプラしてるので「寅さんみたいだな…」と自覚し、「でもロマンスも起きないし、1年のうち誰とも喋らない日の方が多いなぁ」と、厳密には寅さんとはかけ離れている。だけど、寅さんに親近感があるので”逆寅次郎”として日々を過ごし、孤独な独身者でも人生を充実させる方法を模索しています。